今回は、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止の続きとして、派遣労働者への適用と、解雇についてお話していきます。
■派遣労働者への適用
派遣労働者の雇用関係は、派遣元(派遣会社)と派遣労働者にありますので、派遣先(派遣労働者を受け入れている企業)は事業主に該当しません。しかし、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止規定については、労働者派遣法により、派遣先は、派遣労働者を雇用する「事業主」とみなされます。簡単に言えば、この規定に関しては、派遣労働者に対しても自社の従業員と同じ配慮が必要になるということになります。従って、例えば妊娠・出産等を理由として不利益な配置転換をすることはできません。また、指針では次の事項も禁止されています。
- 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、派遣労働者の交替を求めること。
- 妊娠した派遣労働者が、派遣契約に定められた役務の提供ができると認められるにもかかわらず、派遣先が派遣元事業主に対し、当該派遣労働者の派遣を拒むこと。
派遣先と派遣労働者との間には雇用関係がないことから、つい見過ごしてしまう規定ですので注意を要します。
■妊娠中の女性等の解雇無効
今回の母性保護強化に関する改正で最も画期的な規定が次の解雇無効の規定です。
改正前にも妊娠・出産等を理由とする解雇は禁止されていました。しかし、解雇された女性労働者側で、これに該当することを立証することは、なかなか難しいことでした。そこで、今回の改正では、妊娠・産後1年未経過の女性労働者(以下妊産婦といいます)に対する解雇を原則として無効としました。この規定により、妊産婦に対する保護規定は、かなり強化されることになりました。
しかし、妊産婦に対しての解雇が禁止されているわけではありません。事業主側で妊娠・出産等を理由とするものでないことを立証すれば、解雇することは可能です。換言すれば、改正前とは異なり、事業主側に証明責任があるということです。
ただ、解雇に関しては、労働基準法に「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とする」という規定があります。従って、均等法では解雇が可能であっても、労働基準法上、解雇理由に客観的合理性・相当性が必要とされることになります。
解雇は、雇用管理上、最も慎重に対応すべき問題です。特に、妊産婦を解雇することは、法的紛争に発展する可能性が高いので、慎重な対応が必要になってきます。
2回に亘り、母性保護の規定の強化についてお話してきました。少子化対策は国の政策の急務であり均等法だけではなく、各法律で企業に対して様々な対応が求められています。限られた人材で業務を行っている企業にとっては、その負担は重いものになっていると思います。しかし、企業が、子育て支援対策を整えることにより、従業員は、安心して働き続けることができ、結果的には優秀な人材の確保につながっていくと思います。妊産婦保護を含めた積極的な子育て支援は、これからの雇用管理の大きな課題です。
次回はセクシャルハラスメントについてお話していきます。