今回は、性差別禁止の範囲の拡大の中で、最も大きなポイントである間接差別(indirect discrimination)の禁止についてお話していきます。
改正法では間接差別の禁止を次の通り定義づけています。
②他の性の構成員と比較して、一方の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、
③合理的な理由がないときに講ずること
例えば、従業員を募集するときに「身長170cm以上」という基準を設けたとします。この条件は直接的に一方の性を排除するものではありません。しかし、実質的に考えてみる、結果的には女性を排除することにつながることになります。なぜなら、「女性全体」としてみると、この基準に該当する人は、「男性全体」と比べると圧倒的に少ないからです。このような募集は、結果としては「男性に限る」ということと同じ事になってしまいます。
このような形を変えた差別をなくすために、改正均等法では、間接差別の禁止を制度化しました。間接差別は、単に「男性」「女性」という単体ではなく「男性集団」「女性集団」というグループの視点で性差別を禁止していくという点で、直接差別とは異なる特徴があります。
性別による直接的な差別(直接差別)は、均等法施行から20年経過し、また前回お話したように差別禁止事項について明確な指針も出ていることから、均等法遵守の雇用管理は定着してきたと思います。しかし、間接差別の禁止は、今回の改正で初めて制度化されたものですので、禁止事項を明確に把握しておかないと、性別により差別している認識がなくても均等法違反に問われる恐れがありますので配慮が必要です。
改正均等法で間接差別として具体的に禁止されるのは、厚生労働省令で定める次の3つの措置について、合理的な理由がない場合です。具体的な指針も示されていますので、いくつかの指針も取り上げながらお話していきます。
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(合理的な理由がない場合として考えられる例)
- 荷物を運搬する業務を内容とする職務について、当該業務を行うために必要な筋力より強い筋力があることを要件とする場合
- 単なる受付、出入者のチェックのみを行う等防犯を本来の目的としない警備員の職務について、身長又は体重が一定以上であることを要件とする場合
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(合理的な理由がない場合として考えられる例)
- 広域にわたり展開する支店、支社等がなく、かつ、支店、支社等を広域にわたり展開する計画等もない場合
- 広域にわたり展開する支店、支社等はあるが、長期間にわたり、家庭の事情その他の特別な事情により本人が転勤を希望した場合を除き、転居を伴う転勤の実体がほとんどない場合
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(合理的な理由がない場合として考えられ例)
- 広域にわたり展開する支店、支社がある企業において、本社の課長に昇進するに当たって、本社の課長の業務を遂行する上で、異なる地域の支店、支社における勤務経験が特に必要であるとは認められず、かつ、転居を伴う転勤を含む人事ローテーションを行うことが特に必要であるとは認められない場合に、転居を伴う転勤の経験があることを要件とする場合
- 特定の支店の管理職としての職務を遂行する上で、異なる支店での経験が特に必要とは認められない場合において、当該支店の管理職に昇進するに際し、異なる支店における勤務経験を要件とする場合
なお、間接差別の禁止についての詳細は、厚生労働省令のホームページ(PDF)をご覧下さい。
改正均等法において禁止される間接差別は、厚生労働省令で定められた3つだけです。 この3点について、就業規則のチェック等を行い雇用管理上、問題がなければ均等法違反になることはありません。ただ、間接差別となるのは均等法に定められた事項だけに限りません。万全を期すためには、均等法で定められた事項以外にも配慮した雇用管理が必要となります。この点につきましては、次回、お話をしていきます。