今回は、差別禁止の対象の明確化・追加についてお話していきます。
改正前に差別的取扱いを禁止されていたのは、大きく分けると次の4点でした。
②配置、昇進及び教育訓練
③福利厚生
④定年、退職及び解雇
一見、すべての雇用ステージで差別的取扱いが禁止されているようですが、実際には限定的な運用をすることにより、差別事案が顕在化する傾向がありました。
この点を改善するために、改正均等法では差別禁止の対象を追加、明確化しました。改正のポイントは次の通りです。
①降格
②職種及び雇用形態の変更
③退職勧奨及び労働契約の更新
(差別禁止事項の明確化)
④配置に係る業務の配分及び権限の付与
もっとも、これらについては、女性差別禁止の観点から違法性を認める判決が出ているものもありましたので、多くの企業では改正前から、この点を意識した雇用管理を行っていたと思います。その意味では、ドラスティックな改正点とは言えないかもしれません。
しかし改正によりこれらの事項についても性別による差別が法律上、明確に禁止され、それに伴って具体的な指針が示されたことで、今まで以上に慎重な雇用管理が求められることになります。
ところで、指針は、行政庁による法律の解釈を示したものであり、法律そのものではありません。しかし、最終的に法的紛争となった場合には妥当な法解釈として裁判所によって認められる可能性が大きいといえます。従って、指針の内容に従った雇用管理を行うことはコンプライアンスの観点からも不可欠です。ただ、均等法における指針は、「性別による差別禁止」という点で一貫しています。ボリュームはあるのですが内容的には難しいものではありません。ご参考までに、改正点に関し示された指針の例を挙げてみます。
- 一定の役職を廃止するに際して、当該役職に就いていた男性労働者については同格の役職に配置転換をするが、女性労働者については降格させること。
- 営業成績が悪いものについて降格の対象とする旨の方針を定めている場合に、男性労働者については営業が最低の者のみを降格の対象とするが、女性労働者については営業成績が平均以下の者を降格の対象とすること。
-
(職種の変更)
- 総合職から一般職への職種の変更について、制度上は男女双方を対象としているが、男性労働者については職種の変更を認めない運用を行うこと。
- 一般職から総合職への職種の変更について、男女で異なる勤続年数を条件とすること。
-
(雇用形態の変更)
- 有期契約労働者から正社員への雇用形態の変更のための試験の合格基準を男女で異なるものとすること。
- 女性労働者についてのみ、一定の年齢に達したこと、婚姻又は子を有していることを理由として、正社員から賃金その他の労働条件が劣るパートタイム労働者への雇用形態変更の勧奨の対象とすること。
-
(退職の勧奨)
- 女性労働者対してのみ、経営の合理化のための早期退職優遇制度の利用を働きかけること。
- 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者に対してのみ、退職の勧奨をすること。
- 経営の合理化に際して、男性労働者のみを、労働契約の更新の対象として、女性労働者については、労働契約の更新をしない。
- 労働契約の更新に当たって、男性労働者については平均的な営業成績である場合には労働契約の更新の対象とするが、女性労働者については、特に営業成績が良い場合にのみ、その対象とすること。
(労働契約の更新)
-
(退職の勧奨)
- 女性労働者対してのみ、経営の合理化のための早期退職優遇制度の利用を働きかけること。
- 経営の合理化に際して、既婚の女性労働者に対してのみ、退職の勧奨をすること。 (労働契約の更新)
- 経営の合理化に際して、男性労働者のみを、労働契約の更新の対象として、女性労働者については、労働契約の更新をしない。
- 労働契約の更新に当たって、男性労働者については平均的な営業成績である場合には労働契約の更新の対象とするが、女性労働者については、特に営業成績が良い場合にのみ、その対象とすること。
この点は、①~③とは異なり、改正前から配置に含まれるものとされていましたが、実際の運用上、問題が多かったので条文上、明記したものです。禁止される措置の具体例は次の通りです。
- 男性労働者には通常の業務のみに従事させるが、女性労働者については通常の業務に加えて、会議の庶務、お茶くみ、そうじ当番等の雑務を行わせること。
- 男性労働者には一定の金額まで自己の責任で買い付ける権限を与えるが、女性労働者には当該金額よりも低い金額までの権限しか与えないこと。
以上、雇用管理上で問題になりそうな指針を挙げましたが、指針の詳細につきましては、 厚生労働省のホームページをご参照下さい。
均等法の趣旨は、「均等な機会」を保障するものであり、「結果の平等」を保障するものではありません。また、企業が競争原理で機能する組織である以上、個々人の適正や能力による処遇の差は当然生じてくるものです。各雇用ステージにおいて処遇を変更する際には、性別によるものではなく公平かつ客観的な判断によるものであることを十分に説明することが、より求められる時代になったのではないでしょうか。
次回は間接差別についてお話していきます。